今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)

 晩年の父母の子と生れ着ぶくれぬ     向笠 和子

 あらたまの年のはじめのひとりかな    下鉢 清子

 落葉して素直な幹を残しけり       古島 恒子

 時雨るるやひそと二上り三下り      長崎 友子

一本の鎖たらして山眠る         波木井 洋子

時雨るるや鴉が川を見てゐたる      伊村 千代子

冬晴や血管の浮く象の耳         小野田 征彦

玉鋼叩く槌音冬の町           平 嘉幸

浦人に塩椎(しおつちの)(かみ)還りけり            石澤 青珠

「芝浜」が寄席に懸りて年の暮      真塩 裕一

明日からの寒さ捉へし膝頭        金田 美穂

柚子風呂に漬けて息子を素直にす     谷中 淳子

冬晴れや老いし少年兵逝きぬ       上杉 和恵

綿入れに角張つてゐる夫の居て      志村 紗稚

松の勧進暮れの挨拶受けとめぬ      本間 清子

 

           上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。

         一句について200字以内、編集部宛てFAX042-473-3632

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、お送りください。掲載させていただいた場合、

         俳誌「繪硝子」を
贈呈いたします。

 選評一句  (同人集作品より)

       柚子の黄を零さずにゐる昨夜の雨   吉田 七重

 昨夜降った雨が、柚子の回りに付いている。柚子の凹凸が水滴を

とどめる役を果たす。
「零さずにゐる」ことは、風もなく静かな雨で

あった。 
新鮮な瑞々しい柚子が目の前に現れる。

 同人の作品は滅多に直さないのだが、「柚子の黄の」であったのを

「柚子の黄を」に一字替えてみた。元の句は、
「黄色の柚子が雨を零

ない」であるが、直すと「雨の滴が黄色を零さず持ち堪えている」こと

になり何か新鮮な発見のように思える。

 選評一句(繪硝子集作品より)
    万籟を静めし山や冬の月    神津 登喜子

 風景も、この句を作っている作者の気持も、研ぎ澄まされた静けさで

ある。
 万籟は、万物の風に鳴る音とある。  風の音も、鳥の鳴声も、

木々の葉擦れも
収まった山巓に冬の月が上がっている。よほど深い心境

にならなければ
こういう句は詠めない。十二月締切りの句なので、

世間は師走の慌ただしさである。
 その中で、こういう句を為せるのが

詩人なのであろう。 <冬に入る地に還るもの
一つづつ>も掲句の

余韻のうちに作られている。