今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)

   

匂鳥の葛飾雁の渡りゆく           向笠和子

存へて水のやうなる老の春         下鉢清子

ファッションの街の一隅木の実降る     向笠千鶴子

爽やかに波郷交友図の莬絲子        河合寿子

東京に新しき塔鰯雲            波木井洋子

花蕎麦や山刀伐峠(なたぎり)へ径細りけり       見田英子

杖ながら草紅葉踏み安らぎぬ        黒沢京子

天高し五竜岳つくづく男山         久保田庸子

落ち鮎に琅玕の淵ありにけり        杉山京子

やすらかなねむりを祈る秋の夜       矢島としえ

形あるもの影もちて秋気澄む        佐藤里秋

うさぎ波色なき風を連れて来る       梅田利子

竜胆や俳句たしなむ火代番         吉島弘子

虫の音も聞こゆ場末の映画館        小野田 征彦

バイオリン工房の窓みどりさす       石澤 青珠

灯を消してつのる孤独や初時雨       丹野義子

晩年や歳月捲き上ぐ秋簾          中野冨美子

数珠玉の届かぬ距離に輝きぬ        吉田七重

そぞろ寒一揆のその後聞きし夜は      原静枝

佳き月の出ている羽田滑走路        指田昌江

曼珠沙華群れて小暗き黒木御所       安原憲子

薔薇の名はアブラカタブラ風の花圃     渋谷乃里子


   上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
  一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)にて
  お送りください。掲載させていただいた場合、俳誌「繪硝子」を
  贈呈いたします。

 一句選評 (同人集より) 和田順子選
 

    そぞろ寒一揆のその後聞きし夜は   原 静枝

 一揆は、はかりごと・道・方法を一つにする意味で、通常の手段では

解決出来ないことを、解決するために
結成された非日常的集団。

 土一揆、百姓一揆、一向一揆などがある。

 いずれも幕府や明治政府に弾圧されて崩壊する。

 その中で、私たちの記憶に近いのは、困民党の起こした秩父事件。

千曲川で最後の本陣が壊滅したものの自由民権運動として
記憶に残る。

 「一揆のその後」は、処刑や処罰が待っていた。

 世直し運動には様々の
犠牲が伴うものである。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

    曼珠沙華群れて小暗き黒木御所    安原 憲子

 

 黒木の御所は、丸太作りの粗末な御殿。 または天皇御幸の際の仮の住まいを

指す。隠岐島と思ったが、作者は佐渡の黒木御所を詠まれたようである。

 黒木は皮を付けたままの丸太の意味で、黒い色とは限らないが、曼珠沙華の

朱い花の群れている中で、黒木御所の存在が歴史を感じさせる。

 隠岐も佐渡も
遠流の地。最も重い流罪の地であれば、御所と言えども

その暮しが思い偲ばれる。