今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)

   

行く年と来る年の(あい)わづか雨       向笠 和子

初御空雀も光り飛ぶものに        下鉢 清子

元旦や富士の形にルージュ引く      北見さとる

待春の胸に手を当て眠りけり       藤田 純男

人間の一人もゐない初景色        古島 恒子

切り火して神の火となるどんど焼     向笠千鶴子

鐘つけば枯野にはかに沈みゆく      波木井洋子

朝富士のうすくれなゐの三日かな     杉山 京子

ふんばつて泣けよ赤子の松の内      麻耶

初便りいつもの字なり元気なり      佐藤 里秋

朱きネクタイの男居眠る暖房車      渡辺 咲子

輪中守る産土神の松飾り         岩田 洋子

道元の一句かしこし年賀状        吉島 弘子

許されしごとくに寒の明けにけり     石澤 青珠

極月の星われもまた瞬ける        中島 和子

賀状来る百羽の兎跳ね出づる       古賀 幹子

春どなり夕日納める山の位置       金田 美穂

双眼鏡ごと手渡さる初景色        谷中 淳子

初空に餅まく入江大漁旗         浜田 嶺子

美しく海暮れにけり寒の入        河合 益子

静かな夜ガスストーブの響きかな     久保田房子


   上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
  一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)にて
  お送りください。掲載させていただいた場合、俳誌「繪硝子」を
  贈呈いたします。

 一句選評 (同人集より) 和田順子選

   影まろし鴨の眠りのふかければ   近藤 れい


  嘴をふかぶかと羽の中に埋めて眠っている鴨である。

 その丸い影は、安心して深い眠りにある証拠である。

 水の上に浮かんで眠る鳥を「浮寝鳥」と言って、私たちは、ここから

 俳句を詠むが、作者はもう一歩踏み込んで詠んでいる。

 「影まろし」と捉えたところであろう。

 分かっているから、知っているからと、よく見ないことがあるが、

 いつも心を素にして対象に当たろう。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

   遅れたる仔に寄り添ひし寒立馬   大橋 スミ


  青森県の下北半島突端に放牧される馬は、吹雪の中、身を寄せ

 合って立っている。

  その姿を(かん)(だち)()と称して、厳寒に立ち向かう勇敢な

 行動として捉えられている。 仔馬を気遣う様子がこんな状況の

 中にも見える。

  (かん)(だち)という言葉は、古くは羚羊(かもしか)が

 厳寒期に絶壁の
突端や岩上に現れ動かなくなるので、猟師がこれを

 狙い撃ちに
したことに発するらしい。羚羊が天然記念物になって

 「寒立」が
消え、寒立馬」が風物詩になっている。