今月の推薦句 和田順子選(風韻集後半・同人集・繪硝子集より)


 春霖や音なく走るモノレール      渡辺 咲子

 夫逝きて迷ひなく生き梅真白      岩田 洋子

 春とろとろ風呂屋は白き煙吐き     小野田 征彦

 閏日の雪の別れとなりにけり      平 嘉幸

 落椿ふたつの白は妓王妓女       石澤 青珠

 啓蟄や虫偏の字を数へをり       山口 佐喜子

 背負籠に蝶の付き行く安房日和     金山 征以子

 湖の照り姫街道の椿みち        鈴木 薫子

 亀鳴けり世に出る度量なかりせば    金田 美穂

 合格子解けば黒髪背をあふれ      谷中 淳子

 菜の花を見て来て眠くなる電車     吉田 七重

 初蝶来おのれの影にまづ止まり     吉本 紀代

 春の鹿しづかに鴟尾を仰ぎをり     山口 冨美子

 泳がせて諸子売りをる京の町      千葉 喬子

 三月や龍太の空のふかぶかと      倉橋

一部屋に時計が三つ日脚伸ぶ      山田 洋子

 ミモザ揺る風を起してゐるやうに    宮原 圭子

 アネモネに罪の匂ひのかすかなり    清水 ひとみ


   
     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
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    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。


 一句選評 (同人集より) 和田順子選

    春の鹿しづかに鴟尾を仰ぎをり     山口 冨美子

  「春の鹿」の風情が良く出ている。鹿といえば秋の季語であるが、

 春の鹿は趣がある。「孕鹿」であったり、「落とし角」の状態で

静かにうずくまっている事が多い。動作もゆっくりである。

安易に使われがちな「しずかに」が、この一句にはもっとも適切に

使われている。

 奈良公園の大仏殿の鴟尾を見上げている鹿であろう。

孕み鹿にはやがて仔鹿が生まれ、角を落とした鹿には袋角ができ、

ともに夏の季語である。神の使いとして大切にされてきた



 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    


 一部屋に時計が三つ日脚伸ぶ      山田 洋子

  少し日が長くなってきたと思う。時計を見ると夕食の支度の時間を

 とうに過ぎている。 季節の移行を感じさせる「日脚伸ぶ」が、

 季語の説明にならずに詠めている。

  もうこんな時間かと確かめた時計は、なんと一部屋に三つもある。

 夜空でも季節の移行がある。三月の末の西空に金星が大粒になる。

 金星、上弦の月と小さくなった木星が縦一直線になった二十六日、

 翌日にはもう月が上に来ていた。