今月の推薦句  和田順子選
        (清韻集・風韻集前半・同人集・繪硝子集より)

 朝の鳥充分鳴かす梅雨の明け       向笠 和子

 目つむりてゐても楝の花の散り      下鉢 清子

 看護師の夏衣まぶしむ寝て起きて     北見 さとる

 朴高く咲いてザビエル天主堂       藤田 純男

 身の内の善玉悪玉青き踏む        古島 恒子

 山秖の水惜しみなく花わさび       柳田 聖子

 風薫る晋山式に参じける         河合 寿子

 スイッチバックして紫陽花にふれにけり  波木井 洋子

 暮れ方の風の重たき芒種かな       下島 正路

 目盛縄うごきて田植うごきけり      倉橋

 草茂るばかりに波郷病舎跡        石澤 敏秀

 湧水に杓の木の香や夏来たる       鈴木 靖史

 毛虫這ふ蠕動といふ速さかな       千葉 喬子

 殉教碑枇杷のあまさず金色に       森

 朝顔の苗ひよろひよろと甘えだす     久須美 しげ子

 


   
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 一句選評 (同人集より) 和田順子選

     暮れ方の風の重たき芒種かな    下島 正路

芒種は(のぎ)のある穀物を蒔く時期、大体6月5日ごろになる。

暦ではこの日から後の壬の日を入梅と決めているので、

湿った空気を重く感じるころ。

この時期の季節感が良く出ている。

暮れ方、夕方、宵の口、黄昏どき。同じ時間帯でも様々な

呼び方の微妙な違いを大切にしている私たちである。

数年前から気象庁は「宵」という言葉を気象用語から外した。

そのことを嘆く神奈川近代文学館の館報巻頭エッセイが

二度目である。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

 湧水に杓の木の香や夏来たる        鈴木 靖史

水源の湧き水であろうか。飲みたいと思う気持に添うように

木の柄杓が置かれてある。

まだ木の香の残る新しいものである。

「ああ夏が来たんだなあ」との、作者の細やかな感動が

伝わってくる。

新しい事柄や、珍しいものを詠まなくても、

こういう細やかな喜びこそ、生きてゆく事の積み重ねである。