今月の推薦句 和田順子選(風韻集後半・同人集・繪硝子集より)


 口遊む波郷の一句夜の新樹         見田 英子

 初蟬や巫女小走りに物運び         杉山 京子

 昼寝覚一雨のあとの草そよぎ        佐藤 里秋

 秩父嶺にかかる落暉や桑苺         吉藤 とり子

 無為といふ時間が少し梅雨滂沱       小野田 征彦

 蹠に響く暗渠や太宰の忌          石澤 青珠

 風鈴の繫ぐ話の余白かな          金山 征以子

 白南風や海桐の葉照り鉄気なす       鈴木 薫子

 海見たきふと思ふけふ片白草        古賀 幹子

 沢瀉の帯の涼しさ贔屓客          菅野 晴子

 つばめ孵る被災の山河故郷とし       千葉 喬子

 夏至の湖海賊船の最終便          小林 邦子

 やはらかき一日でありぬ半夏雨       倉橋

 花オクラふと寂しさに気づきたる      浜田 嶺子

 老いてゆく静けさにゐて桃香る       久保田 房子

 夜の部屋にバナナの香る静寂かな      清水 ひとみ

 良き香かなほつたらかしの熟し梅      森


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。



 一句選評 (同人集より) 和田順子選

    沢瀉の帯の涼しさ贔屓客        菅野晴子

「猿之助襲名公演」の前書きがあるので、この贔屓客は猿之助の

ご贔屓客なのであろう。沢瀉(おもだか)を描いた帯が涼しそう

である。  市川猿之助、市川段四郎らの屋号が沢瀉屋なので、

いっそう心憎い配慮が行き届いている。

歌舞伎座が立て変わる前に見てから、しばらく足を運んでいない

歌舞伎であるが、芝居見物の一日は伝統文化に浸れる素晴らしい

時間である。  良い音楽を聞いても、良い本を読んでも、近ごろは

感動の度合いが深まったように思う。年を重ねたせいかもしれないが、

俳句をしているからかもしれない。

 

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

    老いてゆく静けさにゐて桃香る      久保田房子

 作者とは句会を共にしているので、この句が西東三鬼の、

<中年や遠くみのれる夜の桃>を踏まえていないことを知っているが、

やはり三鬼の句を彷彿とさせるものがある。

 三鬼がこの句を作ったのは昭和21年、45歳の時、まさに再起の

中年であったが、「遠くみのれる夜の桃」の解釈が、三鬼の生活も含め

多重性をもって迎えられた。

しかし、房子さんの句には多重性はない。共感を呼ぶ表出になっている。

季語の「桃」は、三鬼の句にも、房子さんの句にも命の輝きとして

置かれている。