今月の推薦句 和田順子選(風韻集後半・同人集・繪硝子集より)


 うぶすなのうしろ竹藪松の内      向笠 和子

 舞良戸をぎくしゃく押して日蓮忌    下鉢 清子

 父の匂い弓矢に残る夜半の秋      北見 さとる

 菊月の藤村堂に遊びけり        藤田 純男

 葡萄とは亡き子最後にたべしもの    向笠 千鶴子

 秋風に吹きよせられしごと歩く     波木井 洋子

 とにかく歩く秋晴れの上高地      久保田 庸子

 水澄むや羽州街道宿場町        麻耶 紅

 吊橋の一歩に秋を揺らしけり      渡部 桂子

    アイスランド

 地の割れ目跨ぎて秋を逝かせけり    小野田 征彦

 サフランや言葉少なに未亡人      平 嘉幸

 萩の風翅あるものを誘ひけり      金山 征以子

 火の恋し書棚に古りし小公女      吉村 ゑみこ

 秋澄める細胞初期化てふ言葉      倉橋 廣

 函館の消火器黄色ななかまど      小林 邦子

 松手入れ根方に百貫力石        石澤 敏秀

 白鳥来穏やかな景その日から      今井 眞

 柔らかな光の中に水引草        浅岡 えい子

   
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 一句選評 (同人集より) 和田順子選

 秋澄めり細胞初期化てふ言葉     倉橋 廣

 昨年のノーベル賞に輝いた山中伸弥氏の「細胞初期化」という文言を、

俳句に取り込んで少しも違和感がない。

 全ての情報を取り込めるように、フロッピーなど初期化をしていて

知っていた言葉だが、細胞も初期化できることが、医学に光明を

もたらした。  各術的なことはよく解らないが、心をまっさらに

初期化を図ることは、私たちの日々願っていることである。

「秋澄める」の季語も働いている。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選 
  

    白鳥来穏やかな景その日から    今井 眞

 作者の住んでいる庄内平野も白鳥の飛来地である。

 稲を刈り取った跡に、雪が降ったように白鳥が屯している。

 昼間はこうして寄り合い、夜は休んでいるらしい。

「穏やかな景その日から」に、白鳥が来るのを待ち望んでいて、

姿を見つけほっとしている作者の気持が出ている。

 来年の春まで穏やかな庄内の風景である。