今月の推薦句 和田順子選(風韻集前半・同人集・繪硝子集より)

彼の世ともこの世ともなき月明下      向笠 和子

初雪の尺なす町や箔を打つ         下鉢 清子

泉下よりくるはずのなし雪だより      向笠 千鶴子

冬麗の暦にありぬ室宿(はついぼし)    河合 寿子

川舟の細身に年のつまりけり        波木井 洋子

加賀の麩をひとひら咲かせなずな粥     見田 英子

猟を終へ家族の犬にもどりける       小松 洋子

餅搗きの達人の打つ杵の音         梅田 利子

弓に矢を番へし静寂紅葉散る        渡辺 咲子

外灯のまだ消え残る霜の朝         小野田 征彦

賀状書く遠くに住まふ人にのみ       山口 佐喜子

山梔子の実に色が来て鳥が来て       鈴木 薫子

さびしさや夜空に浮かぶ冬の雲       瀧口 行子

白菜のよく巻いてゐる札所道        吉田 七重

電飾の聖樹の森に迷ひけり         吉本 紀代

牡蠣を焼く小さき焜炉囲みけり       槇  秋生

冬日向幸せさうに物干して         高野 ふよ子

年用意立ちてすませる一片食(ひとかたけ) 金子 富美子

風の中灯を煌々と飾売           原  桃子

冬の水コップの形に充たしけり       清 水ひとみ

   
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 一句選評 (同人集より) 和田順子選

牡蠣を焼く小さき焜炉囲みけり    槇  秋生

  香りが漂ってくるようなおいしそうな句である。

 牡蠣は冬の季語だがRの付く月はおいしく食べられるので

随分長い間楽しめる。 小さき焜炉とあるので、一人用と

思ったが、それでは囲みけりの状態ではない。

多分牡蠣小屋で、自分たちで採った牡蠣を焼いているのでは

ないだろうか。 小さな焜炉を四五人で囲んで話も弾んでいる。

最小限の言葉できちんと情景を描き出せるのも技量である。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選 
   

年用意立ちてすませる一片食(ひとかたけ) 金子 富美子

 一片食と書いて「ひとかたけ」と読む。一度の食事

それも簡単に済ませる食事のことを指し、東北地方では

今も使われているようだ。

年の瀬ともなれば食事の時間も惜しんで、あれもこれもと

忙しい。 そんな年用意の様子が出ている。

未だ元気なころ生き生きと立ち働いていた日々を思い出す。

一片食は江戸時代の書物に所見される。 言葉も財産である。