今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)


駒下駄の音きしきしと卯波の夏    向笠 和子

夏霧は生絹の薄さ出羽の国      下鉢 清子

油田の焔テキサスの夏真輝かす    北見さとる

万緑や一腑の如く山の湖       古島 恒子

士官室白き卓布のアマリリス     久保田庸子

木漏れ日の円型ベンチ梅雨あがる   渡辺 咲子

東照宮遺訓の軸や夜の秋       小野田征彦

おうおうと神呼び給ふ御祓かな    平 嘉幸

父の髭痛かりしこと敗戦忌      石澤 青珠

あぢさゐや庭の石より雨上る     浅井 妙子

昼寝覚乗れさうな雲流れ去る     谷中 淳子

鴨足草酒塩供へ井を塞ぐ       森島 弘子

夫の忌や風鈴二つ鳴りだしぬ     吉村 紀代

老鶯や谷戸窯までの道細き      原  靜枝

熱帯夜ラジオの出番迫りたる     向笠千恵子

風薫る古刹の庭の大刈込み      久保タツヱ

まつすぐに雨落ちてくる洗鯉     安原 憲子

水中花北見先生いかがかと      野ふよ子

夏霧を分けて越えけりあつみ山    今井  眞

傘雨忌やけふ逆流の神田川      田中 虹二

白雲に触るる鳥海山青水無月     斎藤 依子

この夏や由無し事を皆省き      窪井 衣江


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。

 一句選評 (同人集より) 和田順子選

風薫る古刹の庭の大刈込み     久保タツヱ

古刹という言葉は、会話ではあまり出てこないが、俳句ではよく

使われる言葉である。「古く由緒のある寺」のことで、端的に雰囲気を

伝えてくれる。

苅込は季節を問わず、植木の形を整えるのに行っている。

この句の良いところは「大苅込」である。古刹の良く茂った庭の

木木を思い切って刈り込んだのであろう。風通しも良くなって、

さっぱりと緑の風も心地よい。

俳句は一字で変わるものだが、この句は「大」が語っている。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

夏霧を分けて越えけりあつみ山  今井  眞

 「あつみ山」と言われてすぐに思い浮かばないのであるが、

作者の住むあたりで知られる山なのであろう。いかにも峠越えの

感じがしているし、あつみ山にも親しみを覚える。

 技巧を凝らさずそのままを詠んで、夏霧の山を行く作者も見える。

 よく類想があると評されるが、自分に正直に詠んでおれば

そんなに類想句にはならない。良い表現だな、と感心ばかり

していると、いつか自分の表現にしてしまうので気を付けよう。