今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)



 八月は哀しかなしとかなしびぬ    向笠
和子

 心なし風のやはらぐ野菊の辺     下鉢 清子

 一湾の空余白なき大花火       北見 さとる

 水音に明けて秋立つ宗祇水      藤田 純男

 昼の月川瀬の鵜舟一列に       柳田 聖子

 秋の蟬切切と啼く木地師邑      見田 英子

 馬の背を初秋風の渡りけり      久保田 庸子

 胡瓜刻む手許見えても見えずとも   麻耶

 山涼を慈悲と拝しぬ観音堂      梅田 利子

 街は白き光の中や秋暑し       小野田 征彦   

 盆提灯三日の栄をつくしけり     髙平 嘉幸

 小鳥来る藤村像の丸眼鏡       石澤 青珠

 敗戦忌南溟に雲立ち並び       鈴木 薫子

 日焼けして擦れば燐寸のすぐ点きぬ  谷中 淳子

 何くれと母の里より衣被       中野 冨美子

 天の川要塞跡の島一つ        吉本 紀代

 蓼の花ゆつくりと牛こちら向く    原 靜枝

 二百十日稜線ジグソーパズルめく   向笠 千恵子

秋の雲映して牛の水飲場       森

沖縄の塩舐め耐ふる終戦日      安原 憲子

魂送り風が海へとかはりをり     近藤 れい

八月が棒立ちのまま焦げてゐる    亀井 孝始

八月や校歌の歌詞の美しき      大橋 スミ

両肩に食ひ込むリュック敗戦忌    金子 ふみ子


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
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    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。

 一句選評 (同人集より) 和田順子選
    秋の雲映して牛の水飲場    森

放牧されている牛の水飲場を思う。ふと覗いた水飲場の水に

空の雲が映っていた。一年中放牧しているところもあるが、

大抵は草の茂る春から夏にかけて日光浴も兼ねて行われ、

秋の終わりには牧舎に収容される。

牛が水飲場の秋の雲を見て、牧舎に帰る日が近いと

思ったわけではないが、何気ないところに、

季節の移ろいを見た作者の手柄である。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

八月が棒立ちのまま焦げてゐる   亀井 孝始

暑さと戦って過ごした八月であった。「棒立ちのまま焦げてゐる」

感覚は、今年の異常な暑さを直感で表現していて説得力がある。

渡邊白泉の<戦争が廊下の奥に立つてゐた>をふと思い出させる

力強さである。

八月は来し方に向き合う月であり、悼む月であり、内省の月である

一方で、心身の弾ける月でもある。繪硝子集の投句に良い句が

多かったのも嬉しい証拠である。