今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)

 九月の星老人は夜半起き出でて     向笠 和子

 新涼の俎先づは水流す         下鉢 清子

 玄関にどぜう泳ぐと颱風過       北見 さとる

 スイッチバックの姨捨駅や秋高し    藤田 純男

 水替へて金魚大きくなりにけり     古島 恒子

 新涼やよく眠れたる顔洗ふ       波木井 洋子

 清秋やレマン湖畔の女神像       梅田 利子

 柿ひとつ添へ子規庵の芳名簿      石澤 青珠

 茅葺の豊田佐吉の生家たり       鈴木 薫子

 のうぜんの散り敷きて色失はず     中島 和子

 振れば鳴る蓮の実母へ土産とす     古賀 幹子

 聞香の残り香にをり居待月       中野 冨美子

 少年の燈下親しむぼんの窪        同

 薬まだ効かぬ極楽鳥花かな       吉田 七重

 震災忌動く歩道の混み合へり       同

 風紋に秋の気配の砂丘かな       下島 正路

 船員の洗濯板や天高し         山口 冨美子

 吾亦紅順路どうでもよくなりぬ     指田 昌江

 マンションに同じ暮しや緋のカンナ   菅野 晴子

 花野いつもどこか濡れゐてどこか晴れ  山田 洋子

 天高し町医に咀嚼すすめられ      珍田 ミヱ子

 ここに咲くほか無くここに曼珠沙華   近藤 れい


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 一句選評 (同人集より) 和田順子選
   風紋に秋の気配の砂丘かな     下島 正路

 風紋に秋の気配を感じるには、どういう場面だろう。

さらさらとゆっくり形を変える砂の流れだろうか。

日が斜めになって風紋の影が濃く見えているのだろうか。

それとなく感じ取れるのが気配である。そし共感できる。

 「気配」を使うのは感性も敏感に働く秋の季語に合っている。

春兆す、夏兆す、冬めくの使い方がそれぞれの季節には合っている。

「惜しむ」という言葉も秋と春に使い夏や冬には使わない。

 そう決めたわけではなく結果であるところが、日本人の季節への

思いだろう。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

  花野いつもどこか濡れゐてどこか晴れ   山田 洋子

花野は秋の草花が咲き乱れる野辺である。露でも降りたのだろうか

まだ濡れている所もあれば、秋の日が差し掛かっているところもある。

秋の野の感じが緩やかな言葉の調べと共によく出ている。

同じような言葉に「花畑」があるが、これは「お花畑」と表現して

夏の季語にしている。高山植物が咲き乱れる高地である。

「花畠」が「花壇」と共に秋の季語となっている季語集もあるが、

これは季節感がないのであまり使ったことがない。