今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)

 蜥蜴穴を出でて話題の外走る     下鉢 清子

 地吹雪の北浜駅舎攫はれさう     藤田 純男

 春寒し厩の奥のおしら神       柳田 聖子

 しんがりも先頭もなく野に遊ぶ    見田 英子

 千波湖畔烈公も立つ梅見かな     摩耶 

 梅東風や満中陰の香たいて      平 嘉幸

 春涛のたてがみ走る九十九里     石澤 青珠

 東京に春の雪積む一大事       金山 征以子

 沈丁や誰も来ぬけふ郵便も      鈴木 薫子

 春泥や馬場に人馬の影もなし     古賀 幹子

 高札のすべし可からず草萌ゆる    吉村 ゑみこ

 啓蟄の朝より土を掘る工事      谷中 淳子

 ストックの香を閉ぢ込めて旅に出る  吉田 七重

 クロッカス黄なり明日を信ずべし   永見 るり草

 たんぽぽの絮とどまらず放哉忌    千葉 喬子

 春時雨保土ヶ谷宿のしるべ石     鈴木 勢津子

 街灯に吸はれてゐたり春の雪     近藤 れい

 手の内のカード不揃ひ二月尽     槇  秋生

 珈琲のサイフォンぽこりミモザ咲く  宮原 さくら

 影向の松けぶらせる春の雨      弟子丸 すみえ

 永日の落柿舎虚子の破調の句     村井 照子

 啓蟄や学生寮の入れ替り       石関 双葉 


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。

 一句選評 (同人集より) 和田順子選


 
    
たんぽぽの絮とどまらず放哉忌   千葉 喬子

 社会的地位を捨てて放浪生活に入った自由律俳人尾崎放哉。

その人生の過ごし方とたんぽぽの風任せの自由さが、

なぜかぴったりである。

京都の一燈園に始まって様々な寺を巡り最後は小豆島の南郷庵にて

大正15年没。

 人間を遠ざけながらもっとも人間を求めた人と言われる。

<入れものが無い両手で受ける 放哉>がよく知られるが、

<妹と夫婦めく秋草>に深い心情を見る。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

     珈琲のサイフォンぽこりミモザ咲く 宮原 さくら

 珈琲を淹れる器具もそれぞれの好みや時代の流行もあるようだが、

作者の珈琲サイフォンはアルコールランプを灯してぽこりぽこりと

沸騰していくのを眺めて楽しむものなのだろう。

 「ミモザ咲く」と言う明るい季語が、緩やかな寛ぎの時間帯を

表出している。<トーストを少し焦がして山笑ふ>も同じ時間帯

なのだろうか。一日が忙しく始まる前の何よりほっとするひととき。