今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)


 雛かざる今宵満月と聞き及び     向笠 和子

 春の鳥羽裏暗く争へる        下鉢 清子

 梅さして片袖机よろこばす      北見 さとる

 深草の草餅母に供へたる       藤田 純男

 洞窟の奥処は知れず歯朶萌ゆる    柳田 聖子

 菜の花の供華とむすめの新刊書    向笠 千鶴子

 年ごとに捗らぬもの雛納め      宮田 美知子

 春怒濤ずんと頼朝かくれあな     河合 寿子

 この家も一人住まふや梅の鉢     久保田 庸子

 つちふるや銀の茶漉しのくもりぐせ  小松 洋子

 春日や浜の風車は緩らかに      吉藤 とり子

 紅梅や今だ伊吹山の覚め遣らず    岩田 洋子

 菠薐草茹でて寡男も十年目      平 嘉幸

 父母の遠さに潤む春の星       石澤 青珠

 荒東風の沼より発ちし鳥の影     関口 玉枝

 鳥一閃裏磐梯の木の根明け      金山 征以子

 国生みの地を鍬深く耕しぬ      谷中 淳子

 雛納めすみたる部屋に座りけり    田島 昭代

 尼さまの唐門祠堂むめの花      森島 弘美

 ものの芽を光に替へて昨夜の雨    吉田 七重 

 水底の石に日のゆれ柳の芽      吉本 紀代

 風光るなで牛の背に鼻先に      原 靜枝

 骨密度計りし宵の白木蓮       向笠 千縁子

 さざなみは風のあしあと蘆芽ぐむ   永見 るり草

 啓蟄や囲ひはづさる新校舎      小林 邦子

 揺らぐたび蝌蚪の紐また蝌蚪を吐く  千葉 喬子

 木の芽風すなほにねむくなるからだ  松岡 洋太

 種浸し染み込む音を感じをり     小野 英明

 春風や上野の森のヘラクレス     上杉 和恵

 昨夜の風閉ぢ込めゐたり薄氷     原田 貴志子

 湯に体静かに弛め涅槃の日      宮原 さくら



     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。



 一句選評 (同人集より) 和田順子選

    揺らぐたび蝌蚪の紐また蝌蚪を吐く  千葉 喬子

  蛙の卵はゼラチン質の紐の中で育ち、春先に小さな尾を付けた

 おたまじゃくしが一匹二匹と泳ぎ出す。

  作者は根気よくその様子を眺め臨場感ある句になった。

  科斗は杓子の事で、おたまじゃくしは形からきている。

俳句に深入りするまで、蝌蚪も蝌蚪の紐も知らないことであった。

何年か前におたまじゃくしが空から降る現象があったが、その後

聞かない。こんな時間を持ちたいものだ。 


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

    春風や上野の森のヘラクレス    上杉 和恵

  景色の切り取り方が鮮やかである。上野の西洋美術館の中庭に、

 空に向かって弓を引く英雄ヘラクレスの銅像が置かれている。

  力強い銅像に春の柔らかな風が吹いて、季節の息吹を感じさせる。

  上野の山、上野の森と言われるように、豊かな自然が四季の

移ろいを鮮やかに見せてくれる。