今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)


春しぐれわが耳朶のうすく老い     向笠 和子

祝宴のあとの春愁我のみかは      北見 さとる

菜の花や黄金風立つ伊良湖岬      柳田 聖子

春陰の袂石はた手玉石         河合 寿子

菟絲子忌の繪硝子にさす春日かな    岩田 洋子

菜の花や江ノ電風を置いて過ぐ     小野田 征彦

遠く住む老師のありて木の芽どき    平 嘉幸

地に静か三月十一日の雨        石澤 青珠

白樺の雪解眩しき無人駅        関口 玉枝

城沼の水湧く辺りはんの花       吉村 ゑみこ

捨つるべきもの捨てかねて山笑ふ    田島 昭代

哲学堂妖怪門の春日影         森島 弘美

ポケットの片手を出せば風光る     吉田 七重

畑を打つ畝の乱れず振り向かず     原 靜枝

菜の花を挿して利休の忌なりけり    久保 タツヱ

梅の香や御所に二つの(はね)橋門      倉橋

三月のフライドチキンバスケット    槇 秋生

競りに出す馬の嘶き蕗の薹       山口 冨美子 

遠ざかるほど紅梅の濃かりけり     近藤 れい

紅梅の風白梅へ移りけり        指田 昌江

散るときの力を溜めて花万朶      清水 ひとみ

涅槃会や人の間を鳩歩む        宮原 さくら

比良八荒張りつめて鳴る舫ひ綱     鈴木 勢津子

温めてミルクの匂ふ春の雨       廣田 生子

川べりに犀が寝てゐる春の昼      星 瑠璃子

天に聞き地に聞き物種蒔きにけり    清水 義和

風に揺れ屈託もなき葱坊主       堀川 和代


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。



 一句選評 (同人集より) 和田順子選

散るときの力を溜めて花万朶   清水 ひとみ

 桜の満開宣言がでた東京である。ここ一週間どんな花に会える

だろうか。桜は椿のように咲いては散っていく花ではないので、

満開の一週間ほどは一片も散っていないように見える。

散るのを堪えているようにも思えて「散る時の力を溜めて」の表現に

なったのだろう。

散る時が来るまで一心に堪える、そんな感情を抱かせる魅力を

さくらの花は持っている。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

温めてミルクの匂ふ春の雨    廣田 生子

懐かしい感覚をふっと思い出させてくれる。

ミルクは自分のために牛乳を温めているのかもしれないが、

ミルクと言われると、赤ちゃんの哺乳かもしれない。

あの甘い香りに包まれて子育てをしてきたものだ。

温めてほんのり甘い香りのミルクと春の雨の取り合わせが

とてもいい。優しい気分にさせてくれる。

日常からふっと掬いあげて詠んで成功。