今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)


焦げくさき街の夕ぐれ夏落葉     北見 さとる

()()(しろ)道袋を下げし蝮捕り      藤田 純男

つゆ晴れやひかりまぶしき庭に立つ  宮田 美知子

鯉の軸かけて生家の夏座敷      波木井 洋子

朝露をしろがねに編み蜘蛛の糸    小松 洋子

ひと声を残して鶯音を入れぬ     梅田 利子

段葛どう歩いても炎天下       小野田 征彦

軍港を抱ふる街の暑さかな      石澤 青珠

願掛けの梶の葉しかと結はへけり   古賀 幹子

桑の実や村に消えたる野鍛冶の火   田島 昭代

鮑貝のつそりむつくり地獄蒸し    向笠 千縁子

わだなかのはるけき時を貝風鈴    永見 るり草

秩父嶺の夕風とほる茅の輪かな    倉橋

寝苦しき夜の明けにけり花南瓜    秋生

大佐渡の闇振りかぶり薪能      千葉 喬子

梅雨ひと日これといつたる事もなく  下島 正路

水無月の赤き半月のぼりけり     近藤 れい

硝子戸に蛾が当然のやうにゐる    松岡 洋太

傾げたる日傘は私室めきにけり    金子 ふみ子

真つ直に歩む百足虫の矜持かな    小野 英明

カザルスの鳥の歌聞く夏の椅子    吉川 幸子

子ら泳ぎ俄かに水の若返る      廣田 生子



     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
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    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。



 一句選評 (同人集より) 和田順子選

硝子戸に蛾が当然のやうにゐる   松岡 洋太

  蝶と違って蛾は大体夜行性なので、昼間は硝子戸などに羽を

 開いて止まっている。隠れることもなく当然のようにいる。

  「当然のように」が蛾をよく言い当てていると思う。

  ガラス窓や石にへばりついて餌を待っているのだ。

  以前「大水青」という大きな蛾を見たが、誰もが目を留める

 岩の上にとまっていた。目立つことなどちっとも気にしない

様子が見事と言えば見事。「当然のように」の把握も見事。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

カザルスの鳥の歌聴く夏の椅子   吉川 幸子

 カザルスはスペインのチェロ奏者であり作曲家である。

作曲した小品「鳥の声」が有名であり、いつかどこかで

聴いている。夏の椅子はどこに置かれてあるのだろう。

ゆっくりと心の落ち着く場所であるに違いない。

 チェロの奏法を確立したカザルスには、バッハの無伴奏

組曲があるが、夏の椅子に掛けて聴くのは「鳥の声」がいい。

 そうだと思い出して聞いてみたくなる。