今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)


新春のミサは納戸の暗き中       向笠 和子

桐は実に齢の果てを子と棲めり     北見 さとる

つるべ落し書かねば忘るることばかり  向笠 千鶴子

吾亦紅すくと立ちたるこころざし    河合 寿子

新涼や山羊飼ふ山の尼僧院       小松 洋子

爽やかに水切り石を飛ばしけり     杉山 京子

飛んできて烏が啼くよけんぽなし    小野田 征彦

新涼や伊予青石は濡れてこそ      石澤 青珠

虫売の籠の中まで暮れにけり      吉田 七重

野牡丹の朝なさなちる紫紺かな     永見 るり草

みちのくの菊の節句の茶会かな     野 ふよ子

虫売に座敷帰りの妓の二人       倉橋

最終便まはし良夜の転車台       千葉 喬子

ファインダーの中の青空涼新た     山口 冨美子

山の影木の影まぎれなき九月      松岡 洋太

立待や江戸名所図会には木橋      小野 英明

橡の実や波郷の病舎跡閑か       石澤 敏秀

新涼や石の窪みの水鏡         原 桃子

戦争を知る人の逝き星流る       長谷川 あや子

秋爽や自転車のチェーン張つてみる   吉本 安良

思ひ出し笑ひつまべに種飛ばす     廣田 生子

死とはもう月のショパンを聴けぬこと  小林 千秋

蓮の実の飛ぶとき誰も通らざる     百瀬 七生子


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。



 一句選評 (同人集より) 和田順子選

橡の実や波郷の病舎跡閑か    石澤 敏秀

石田波卿が長い闘病生活を送った療養所は清瀬にあった。

今もその跡が残されている。作者はしばし佇み橡の実を拾って、

あたりの静けさに浸ったのであろう。「橡の実」と具体的に

詠んだところが、確かにその場所にいることが分かり臨場感が

ある。『惜命』の句集のなった所である。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

秋爽や自転車のチェーン張つてみる  吉本 安良

  秋爽はなかなか言いにくいが、字を見ればいっそう爽やかな

 秋を感じる。自転車のチェーンは使っているうちに緩みが

出て、しっかり走れるように締め直しているのであろう。

 さあこれからサイクリングだ、という弾んだ姿が伝わって

くる。類想感がなく、その姿が生き生きと見える。

技巧もなくそのまま詠んで却って力強い一句になった。