今月の推薦句 和田順子選(清韻集・風韻集・同人集・繪硝子集より)

静寂にひたる小春日にひたる     向笠 和子

虚子踏みし跡踏み秋を惜しみけり   下鉢 清子

鮎落ちし九頭竜色を深めけり     藤田 純男

思ひ出の湧く湧く夜のながきこと   向笠 千鶴子

天南星の実のてらてらと残りをり   河合 寿子

鳩吹くやこの(やつ)に住み日暮れける   小野田 征彦

よく動く体育の日の河馬の耳     石澤 青珠

寄せ宮のしんと十月桜かな      金山 征以子

虚子旧居入日に柿の熟れまさり    古賀 幹子

鳴子峡の秋色駆ける間欠泉      中野 冨美子

懐古神社紅葉明りとなりにけり    森島 弘美

彫りすすむ日光彫や山粧ふ      原 靜枝

夜顔のひらけば闇のしざりけり    永見 るり草

流鏑馬の(かん)一声に過ぐる秋      倉橋

ボンネットバスの旧軽秋うらら    千葉 喬子

津波の地闇厚くして星流る      下島 正路

棗の実甘し小諸の空青し       山口 冨美子

秋灯ペンを離れぬペンの影      鈴木 勢津子

今生もざつと過ぎたりとろろ汁    松岡 洋太

深秋の今を覗くや鏡石        宮原 さくら

鶏頭の食感ざくと聞こえさう     杉本 正子

梨を食ふしやりしやりと食ふ今日を終へ 宮 紀子

マンションの秋の灯どこも無表情   村井 照子

天高し絵画のやうな迎賓館      大橋 スミ


     上掲の作品について、一句鑑賞文をお寄せください。
    一句について200字以内、編集部宛てFAX(042-473-3632)
    にてお送りください。掲載させていただいた場合、
    俳誌「繪硝子」を贈呈いたします。


 一句選評 (同人集より) 和田順子選

   秋灯ペンを離れぬペンの影    鈴木 勢津子

  この秋灯はすぐ身近に置かれた灯。手許の明かりは濃い影を

 投げかける。ペン先を眺めながら考えて、思いついてペンを

走らすと影も付いてくる。些細なことに気付く秋の夜の静かな

感じが詠めている。何気ないことを詠んでいながら、今が満ち

足りている時間であることが読後しみじみと分かる。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

   梨を食ふしやりしやりと食ふ今日を終へ   紀子

  何気ない情景であるが、畳み込まれるような力強いリズムが

 一気に読ませて心地よい。健康な歯が美味しく梨を噛んでいる

 様子。充実した一日を無事終えた安堵感などが、たった十七文

字で表現できるのだ。俳句っていいなあと皆に思わせる。

 「梨を食ふ」と俗を詠みながら俗に落ちていない内容がよか

った。