今月の三人集  和田順子選

   風韻集作家の中の、今月の推薦作家三人集です。

   麦の秋  波木井  洋子

 麦の秋多摩の生家の遠き日日

 甚平の夫物忘れしたやうな

 サングラスかけて無口となりにけり

 水打つて安産の子を迎へけり

 夫の手が招く中庭茗荷の子

 校庭の花火を音で聞く夜かな

 

   緑蔭  平 嘉幸

 緑蔭にわが細胞の生き返る

 腹這ひて終の住処の草を引く

 昼寝して寧き寝覚めやこの世よし

 牛蛙のこゑ一水を鎮めたり

 折からの風のほどよき門火かな

 咲き満ちて花の乏しき太藺かな

 

   ソーダ水  槇 秋生

 手話交し合へる二人やソーダ水

 アンティーク時計刻打つ夏座敷

 河童忌や風の死したる平家池

 四阿にもう誰かゐる炎暑かな

 噴水や旅の鞄を傍らに

 端居して夕風立つを待ちゐたり

 一句選評 (同人集より)  和田順子選 

     軍艦も海も圧して雲の峰    堀 美和子

  八月は、軍艦と言う言葉の響きが辛く感じる。戦って

海に沈んだ日本の軍艦を思うからだろう。

 いま日本で見られるのは基地に寄港している外国の

 軍艦であるが、その威容は驚くばかりである。その軍艦も

 広やかな海も圧倒するように、大きな雲の峰が立ちあがって

 いる。人間の作り出した軍艦も、大きな自然の力には敵わないと

 言っているようにも思える。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

     滝落ちて再び川となるところ  斎藤 依子

  <滝の上に水現れて落ちにけり>の夜半の句は、滝の落ちる

 ところを詠んでいるが、齊藤さんの句は滝のその後を詠んでいる。

  踊り撥ねた水が、また元の川となって流れている。

  滝壺から大分離れているだろう。再び川となるところの、静かで

 穏やかな風景は、何かを乗り越えてまた平穏な気持ちを映している

 のかもしれない。