今月の三人集  和田順子選

   風韻集作家の中の、今月の推薦作家三人集です。

    穀雨    野 ふよ子

 雛納む赤子の寝息聞きながら

 晩年を励ましてをり紫木蓮

 若き日の夢をいまだに達治の忌

 あちこちに泥つけてゐる春の鹿

 芝居はね銀座通りの春の雪

 姨捨の田毎を濡らす穀雨かな

 

    風光る   近藤 れい

 別当にあまゆる神馬朝ざくら

 提灯の赤きを灯し初ざくら

 隅田川風光りつつ曲りつつ

 とほきほど白木蓮のひかりかな

 咲き出でて水に影おく花大根

 つぎつぎと飛びたつ鴨の別れかな

 

    啓蟄    石澤 敏秀

 礎石みな凹みを持てり春時雨

 春愁の重さ木道ぎいと鳴り

 風に鳴る音を想へり花木五倍子

 若芝のひと雨ごとの踏み心地

 啓蟄や鳥語忙しき雑木林

 啓蟄やふと水底に動く影


 一句選評 (同人集より)  和田順子選 

    兜太逝き鮫の消えたる梅の庭   廣田 生子

  兜太の句<梅咲いて庭中に青鮫がきている>を踏まえて

 いる。金子 兜太が梅の咲くころに惜しまれて称えられて

 亡くなられた。庭中に来ていた青鮫が一瞬に消えたほどの

 衝撃であった。

  狼に一匹付いている蛍、烏賊のように蛍光する銀行員など、

 兜太の取り合わせの大きさは忘れられないであろう。


 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

    老い先といふ春愁のありどころ  田中 虹二

  春の季節は、満ち足りた気分の半面にふと憂いを感じる時

 でもある。何となくの憂いなのである。

  深刻ではないが、老い先のことを考えると漠然とした不安

 を覚えることが、春愁のありどころなのであろう

  誰にでもあることながら、「春愁」の情緒が感じられる。