今月の三人集  和田順子選

   風韻集作家の中の、今月の推薦作家三人集です。

   奈良  谷中 淳子

 当麻寺蓮池の水沸かんとす

 石段の隙にも松葉牡丹かな

 蟬の木の被さる(たい)()()(はや)(つか)

 葛城山頂を指す蟻の列

 雲海に透くは畝傍山とをしへらる

 高原の夏やロッジの濃きミルク

 

   鯨食ふ国  松岡 洋太

 日本は鯨食ふ国海の日来

 夜濯ぎの男が唄ふ反戦歌

 時間みな我のものなり水中花

 ヴェネチアにゐたる筈なり昼寝覚め

 蚊とんぼや我を労ふ酒五勺

 江ノ電まだ二両のころの夏の海

 

   雷鳥  河角

 放哉の破調の一句夏の風

   信州富士見高原

 夏菊や夢二辰雄の療養所

 居酒屋の賑はふ路地の麻暖簾

 夢に出でし亡妻は一瞬籠枕

 帰省子の土産の甲斐の笹子餅

 雷鳥の生まれ嬉しき日本アルプス


 一句選評 (同人集より)  和田順子選 

    蚊遣火の睡眠中を灰にして  髙久 久美子

  夜、蚊取り線香を焚いてやすんだが、あさ目が覚めて

 みるとすっかり灰になっている。よくあることを詠んで

 いるが、この句の鑑賞は「睡眠中を灰にして」をどう

とれるかである。

 寝ている間に灰になってしまったではない。自分の

寝ている時間、たぶんよい夢を見ていた時間すら灰にして

しまったと感じ取るべきであろう。

 一句選評 (繪硝子集より) 和田順子選    

    冷奴躓きつつも直に生き  渋谷 乃里子

  渋谷さんは横浜句会で勉強中。熱心なクリスチャン

でもある。ご主人を亡くされて一人暮らしも私と似て

いる。年齢を感じさせない熱心さや良識が皆の尊敬を

集める。すぐに立ち直って自分の生き方を通す姿が

清々しい。